シェイプ・オブ・ウォーター

デルトロワールド全開。

個人的にファンタジー映画は子供っぽくて苦手だが、デルトロ監督の「パンズ・ラビリンス」でのダークすぎるファンタジーの世界観に惚れ込んだことがあるため 「お子さま向きの映画ではないだろう」と期待していた。
結果、物語早々にヒロインの自慰シーンを拝見した時点で私好みの作品であることを確信した。

常時水中を連想させる緑と青を基調とした光が照らされていて、ドレスや建物の内装、タイムカードといった小道具まで徹底して同系色で統一している。そのうえストーリー上で水にまつわる状況が多々ある。例えば半魚人の研究所の水槽、トイレ掃除、雨の日、風呂場と、常に水を意識させられた。そのため、日常のシーンでもあたかも水中にいるかのような不思議な錯覚を受けた。

デルトロ監督といえばクリーチャーの造形が深いことで有名だが、今作も例外ではない。
老若男女誰が見ても半魚人と答えるであろう、見事に魚類と人類の中間を行くデザインをしている。そのビジュアルは一見おぞましいが、物語のメインキャラである彼についてはいくらでも語ることができるほど魅力的。半魚人は人間とコミュニケーションを図ることができるうえ、心優しくユーモアがある。身を呈してヒロインを守る彼に非常に愛着が湧いた。

そのリアルな肌質はスクリーンから見ているだけで魚類特有のヌメリけのある触感がわかるほどディテールに富んでいる。
だが、おぞましさだけではなく神々しさや可愛げも持ち合わせている。
彼の好物はゆで卵で、映画や音楽に夢中になる姿はまるで無垢な子どものよう。
また、人間と心を通わせたときに身体をLEDライトのように青く発光する様は美しい。
生まれつき耳が不自由で会話ができないヒロインと手話を使って種族を越えたコミュニケーションを図るシーンには感動した。

本作の主要な登場人物はみな孤独を抱えている。
障害を持ち、意思の疎通が困難なヒロイン。仕事を失ったゲイの老人。そして半魚人。みな社会から隔離された者たちばかりだ。
そんな孤独な彼らは協力して、仲間の危機を乗り越えようと奔走する。
私自身も一般社会の中の少数派だと感じることがあるためか、マイノリティ側の人たちを見るたびに切なく愛おしくなり、抱きしめたくなる感覚に陥る。

シェイプ・オブ・ウォーター」はどこを観ても美しいシーンばかりだが、その中でも最も美しい場面は風呂場の扉と栓を閉め切り、部屋を水でいっぱいにするシーンだ。水に沈んだ風呂場というのも幻想的だが、その中で抱き合う2人は神秘的で特に印象的。
エンドロールでは、まるで自分がふわふわと水中に漂っているかのような不思議な余韻に浸った。
鑑賞後、プロローグで水中に佇む廃屋と女性を思い出す。その意味を知り、感慨に耽る。

辛いことや悲しいことが身の回りで起こると、現実逃避をしたくなるものだ。
そんなときは恐ろしい外見の半魚人があなたを、優しく甘美な幻想の世界へと誘ってくれることだろう。