ハクソー・リッジ

初めて"戦場"映画を観た。
第二次世界大戦下の沖縄戦アメリカ側からの視点で製作された「ハクソー・リッジ」。
主人公は米軍で活躍するデズモンド・ドス。実在の人物だ。幼い頃のトラウマと宗教観の影響で人を傷つけることを極端に嫌う彼だが、周囲の反対を押し切り武器を持たない衛生兵として軍に志願することになる。

戦場で兵士たちは火炎放射器で火だるまにされ、爆発で真っ二つにされ、腹わたが飛び散る。そして肉が吹き飛ぶ音や骨が砕ける音が鳴り響く。
ゲームでも見たことのない生々しい描写が容赦無く続き心底恐ろしかった。だが、それらは現実に起こったことであり、悲しいことに現代でも続いている。その事実にまた恐怖する。見ず知らずの人間同士が鬼の表情で殺しあう様は、ただただ悲しかった。
実際の戦闘はもっと過酷なのだろうが、戦場のリアルを初めて垣間見た。そして、悲しみで涙が止まらなかった。

「殺し」が普通になっている異常な世界で、衛生兵の主人公の「人を助けたい」という素直な気持ちはより浮き彫りになって目立っていた。人を傷つけることを嫌い、銃を持つことを頑なに拒んだ彼は同僚や上官から「軟弱者」と馬鹿にされ続けた。しかし1番勇気を持っていたのは彼だった。「人を助ける」という信念を、銃弾が飛び交う中でも貫き通し、結果多くの命を救った。
ラストで流れるデズモンド・ドス本人の映像で「自分が助けた兵士が笑顔で喜んだことがとても嬉しかった」と穏やかな表情で語った。彼の根っからの優しさに感動し、また涙。

メル・ギブソン監督作品はハードな作品が多い。鑑賞後陰鬱な気分になることもあるし、疲弊感を感じることもある。だが、その分観客は製作陣の主張を偏向することなくストレートに受け止めることができる。「ハクソー・リッジ」は反戦を一切謳わず、悲惨な現実をただただ突きつけてきた。具体的で教示的なメッセージがなくてもリアルな戦場の映像表現を見ることで、戦争の恐ろしさを嫌という程知ることができる。そしてこんな世界は絶対にあってはならないと強く思わされた。

大画面で音響が整っている映画館で観るべき作品。
傑作。