奇跡の2000マイル

旅は人生の縮図だ。

濃厚な旅をする人は、その人生も同じく奥深く意義のあるものになるんだろう。
オーストラリアの広大な砂漠を半年間かけて、愛犬とラクダ四頭を連れて踏破した女性主人公のロビンを見ていて自然とそう感じた。非現実的な大冒険を描いた本作品は、ノンフィクションだ。
ロビンは過酷な旅の中で、今までの人生で関わったことのないタイプの人たちと多くの出会いを繰り返す。出会って別れて、また出会う。今生の別れだからこそ、その一瞬の出会いは貴重で得難い。多種多様な価値観を持つ人たちとの触れ合いの中で彼女の心は大きく成長していく。人付き合いにおいて言語はさほど重要ではない。オープンな心さえあれば、世界中の誰とだってうまく付き合えることを彼女は教えてくれた。

「たった1人で砂漠を突っ切るなんて無茶だ!」と、周囲の人間から突っぱねられても彼女は一切耳を傾けず、自分を信じた。死に直面するような場面に遭遇しても「旅を完遂する」という強い精神で肉体の限界を何度も打ち破る。数多の危機を乗り越えて実際に砂漠を踏破した強靭な意志には感服だ。
彼女はこの偉大な旅でどれほど多くのモノを得たのだろう。幾度となく死ぬ思いをしてまでも、自分の心に正直に成し遂げたこの冒険は、彼女の人生においてきっと大きな財産になったはずだ。

彼女の勇姿にも感動するが、オーストラリアの広大な大地と広い空もまた感慨深い。どこまでも続く地平線に太陽が沈み、夜はプラネタリウムよりもはっきりと見える星々が瞬く。
普段住宅街とビル街に生きる私にとっては、その情景はまるでこの世のものとは思えない幻想的な美しさがあった。
それに加えて音楽も非常に秀逸。大げさに盛り上げたりすることなく、主人公の心情を端的に表すような旋律が控えめに響く。ピアノの音色が特に心地よく、物静かな冒険にひっそりと色を添えていた。

こんなにも「終わってほしくない!」と思いながら鑑賞した映画は初めて。きっと、物語に見入ってロビンと一緒に自分も旅している気分になっていたからだ。
鑑賞後、自分自身オーストラリアへ旅をしたくなった。現地の景色を実際に自分の目で見て、身体で風を感じたいと強く思わせてくれた。
ラクダと犬との旅はしないにしても、バイクやクルマでオーストラリアの広大な大地を駆けぬける衝動にかられている。

やっぱり旅って最高だ。
「奇跡の2000マイル」は観た人に、人生で大切な冒険心と好奇心を奮い立たせてる。